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放射能汚染された水産物のこと

 原発に関連して昔学校で勉強をした水産物のことを書いておきたい(思い違いがあったので08日に修正した。すでに読んだ人は、読み直していただけるとありがたい)。

 海洋の放射能汚染が進行中であるが、汚染の状況は調べにくい。一回の調査に金もかかり、農産物のように役人が車で農家を回ってサンプルを集めるというようなことはできないし、一回の出漁で複数箇所の魚を獲った場合、高いレベルの汚染があっても、低いレベルのサンプルで計測され、流通してしまう可能性があるし、その逆もあり得るから、流通の各段階でチェックする必要がある。

 また、最新の計測機は知らないが、以前から使われている機械は、大きなフードプロセッサーみたいなもので、ある程度の量のサンプルを投入して計測する。血液検査のように少量かつ多数のサンプルを次々にこなしていくのが難しいので、汚染の性質上、今後広範囲の漁獲物を大量に調べなければならなくなるから、なんとも心もとない。
 大雑把だが自衛策を考えてみたい。
 まず、魚介類に汚染が頻繁に見つかるようになったら、子供には大西洋の先進国が出荷した大西洋産の魚介類を食べさせるのがよいと思う。魚介類を食べさせないというのではなく。日本の食文化の伝承のために、親や学校給食関係者は、手間はかかるができるだけ頑張ってほししい。
 
 大人はあまり神経質になり過ぎない方がよいと思う。50歳以上なら日本の市場で流通してるものなら気にせず食べてもいいだろう。

 では、どのような魚介類が汚染されやすいのだろうか。
 まず、汚染された浅海の砂泥底にすむ二枚貝や甲殻類は汚染されやすく、またヨウ素を吸着しやすいという海藻やそれを食べる巻貝は汚染されやすいといえるだろう。ただしこれらは移動力が小さいので、海域ごとの汚染レベルに応じて避けることができる。高濃度汚染の甲殻類や貝、海藻などが見つかりはじめたら、出所のはっきりしないものは口にしない方がいいだろう。
 
 ややこしいのは、自由に動き回る魚である。移動力の大きい魚は、どこで何をやってきたかはっきりしない。何かいえるとすれば、広い範囲を動き回る魚より、汚染海域にとどまる魚の方が汚染されやすいことだろうか。

 魚でよく問題になるのが生物濃縮である。汚染物質の生物濃縮をいうとき、生息環境の汚染度レベルを1として、その何倍かという数で現す。割と調べられているセシウムの場合、その値は1~100ぐらいとされている。つまり、魚のタイプをよく考えないと海水の100倍ぐらいの体内被曝を食らうこともあるし、全然大したことがないこともあるわけだ。体内被曝は体外被曝の2~3倍の威力を持つので、若い人はある程度気をつけたい。ただし、重金属や有機化合物のように環境の何百倍何千倍というような蓄積はないとされている。
 しかし、日本近海でこんなに高濃度の放射性物質が放出されたことがないので、どのような経過を辿るかはまだよく分からない。

 汚染されやすさは、その魚の食性や生態によって異なり、プランクトン食者より浅海の底性生物食者の方が放射性物質蓄積されやすく、肉食魚は何を食べるかによって異なる。
 また、論理的には寿命が長く大きくなるものほど蓄積の度合いは高く、さらに脂肪と内蔵に蓄積されやすいと考えられるが、肉の方が値が大きいというデータもある。
 セシウムの場合、50日で半分体外に出るという実験報告があり、農水省などは放射性物質は魚の体に貯まりにくいといって安全性を宣伝している。
 農水省は海底に沈んだ放射性物質は魚類に影響与えないとしているが、底生生物に取り込まれることが知られているのだから、常識的に考えると簡単には信じられない。
 漁業者を守るために安全性を強調するのは分かるが、国はかなり信用を失っているのだから、検査体制を早急に充実させて欲しい。

 文献には、放射能汚染は種ごとの検討が必要だと書かれているものがあり、筆者もそう思う。日本の市場には何百種もの魚介類が流通し、異種同名や、同じ物が何種類もの名前で呼ばれたりすることが多いので、魚介類の名前と顔を多少は覚えた方がいいと思う。でないと、よく分からないからお魚は全部ダメなんてなことが起きてしまう。

>>追記

 4月5日の朝日新聞(ネット版)で、茨城沖のイカナゴが4080ベクレルの放射性ヨウ素が検出され、出荷を停止するという記事が掲載された。
 今獲れるイカナゴは市場価値の高い新子(稚魚)である。理論的に汚染物質を貯めにくいはずだが、発表された放射能は暫定基準値の2倍であった。
イカナゴ生活史
イカナゴの生活史と汚染。赤いのは汚染イメージ。全くのテキトー。実際はもっと広範囲と思う。

 記事にも簡単に説明されている通り、イカナゴの新子は表層に群れているので、茨城沖の表層水が汚染されており、引き網で群れとともに汚染物質を集め、そのまま汚染海水といっしょに魚倉に貯めおいたことが原因と思われる。
 これは、漁法や収穫後の処理や運搬方法によって汚染の度合いが変わることを示している。これからの漁船には、船倉に汚染されていない水氷を貯めて出航することが必要となるかもしれない。

 茨城は福島第一より南にあって、黒潮流の北上で汚染水は少ないと思われていたが、複雑な沿岸流によって、海岸沿いに汚染水が南下していることを示している。
 水産庁と保安庁には、簡単でもよいから大気のようなシュミレーションを検討してもらえないだろうか。
 
ちょっとだけ宣伝(笑)
日本の海水魚
ちょっと古いけど、拙著「日本の海水魚」食べる魚を中心に収録した。生活史を知れば色々役に立つと思う。よかったら買ってね(笑)。

 追記(2013年6月25日)

 自分の本の宣伝などして陽気に書いていたが、事故から2年と少し経った2013年6月現在、楽観的な予想は打ち砕かれ、各地から悪い報告が集っている。
 東北、関東の淡水魚はすでに汚染が進んでいたが、悪い方の予想通り、汚染された砂泥がたまる内湾の魚から高濃度の放射性物質が検出されている。内湾の魚には美味い魚が多く、また内湾は稚魚の揺り籠となるので、この状態は日本の魚食文化に深刻な影響を与えそうだ。
 以前から東京湾全域でセシウムが検出されていたが、北から様々な物質を運ぶ江戸川河口の濃度が高まっており、今後も増え続けることが予想されている。研究者の中にはそのピークが来年という人もいるが、福島第一から汚染水漏れなど、放射性物質が出続ける限り、ピークはもっと先になる可能性もあるし、高い水準のまま横ばいとなることも予想される。
 東京湾の魚、即ち江戸前の魚は最早子供に食べさせられるものではなくなっているから、その味を次の世代に伝える事が難しくなったいえる。
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Kimupon_Cicadan 木村 義志

Author:Kimupon_Cicadan 木村 義志
出身地 : 大阪市
現住所 : 東京都
1955年生まれ
科学図書執筆編集のお仕事
分野は生物学系

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