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お足の語源は中国の歴史書なのか?

 遅まきながら謹賀新年。早いもので21世紀も10年目に入った。今年も皆さんのご多幸を心よりお祈り申し上げる。
 今回はお金の話。といっても経済の話ではない。江戸時代のコインと他愛ない女房言葉の話。

寛永通宝表

 これは寛永通寳。江戸時代の初期から明治の中頃まで流通していた、量的にも流通期間的にも日本を代表するコインの一つである(法的には昭和28年まで日本の硬貨として認められていた)。
 単位は一文と四文の二種類。江戸時代の貨幣価値を現在の通貨に換算するのは難しいが、そば1杯16文とか風呂屋が10文とか、資料が伝える様々な物価から推測するに、江戸時代の庶民はこのコインを、今の10円~40円ぐらいに感じていたのではないかと思う。
 香川県観音寺市では2010年春、地元の町おこしグループと市が「寛永通宝を流通させて地域の観光や商業を活性化させたい」として、一枚30円のレートで買い物ができるようにするという報道があった。しかし、流通というのは多分にオーバーな表現で、実際は加盟店やフリーマーケットに限って使えるイベントクーポン券のような扱いのようだ。

 現在、寛永通寳の中には一枚何十万円もするものがあるというが、それは現存枚数の少ない特殊なもので、普通は一枚50~150円。しかもそれは美品の値段であって、すり切れたものにはほとんど商品価値がない。

 話はここから本題に入る。江戸時代の女房言葉に「お足」というのがあり、これはいうまでもなく「お金」のことで、男女を問わず今でも使う人がいる。辞典によればその語源は、中国の歴史書「晋書」の中にある「魯褒(ろほう)伝」がその始まりと説明されている。なんとも難しい話だ。魯褒ってどこの誰だよ、といいたくなってしまう。
 「晋書」の解説本によると、魯褒とは3世紀の終わり頃に「銭神論」を匿名で著し、世間の拝金主義を風刺した人物らしく、「銭神論」の中にある「無翼而飛、無足而走/(銭は)翼がないのに飛び、足がないのに走る」が「お足」の語源となったというのだ。筆者はそんなアホなと思うのである。
 お足が女房言葉、つまり御殿で働く侍女達のスラングだというなら、晋書などという難しい所からもってきたとは考えにくい。おならも、おにぎりも、おでんも、みんなそうだが、語源はたいてい他愛ないもので、直感的に音を楽しんでいるだけだ。女房が屁というのナンだから「お鳴らし」で「おなら」に縮めたというのはいかにも説得力がある。もし女房言葉の中に中国の古典の一節を起源とする言葉があるなら、論語やお経を起源にするものがもっとあってもよさそうなものだがほとんど見当たらないのである。
 今のギャル言葉の奔放で直感的な言語センスの面白さに舌を巻くことがあるが、同じように昔の女達にも教養主義の屁理屈は似合わない。スラングは感覚的な面白さが命と思うのである。

 さてそこで、これをご覧いただきたい。これは上の寛永通寳の裏面である。まさに「お足」。これは銅山で有名な足尾で鋳造された銭であることを示すマークで、古銭の世界では足尾銭または背足と呼ばれている。

寛永通宝裏

 江戸時代に作られた寛永通宝の数は不明だが、現存数が100億枚ぐらいあるといわれているので、江戸時代を通じて発行された数はその何倍かになるだろう。ちなみに日銀の資料によると今の10円玉は約200億枚が流通しているというから、それよりずっと長く作り続けられた寛永通宝の発行総数は1,000億の単位かも知れない。
 その中で裏に「足」のマークのある銭の割合は不明だが、2006年の足尾町文化財調査委員会の推定では約2億枚が作られたという。総数からすればごく一部に過ぎないが、足尾銭の古銭市場での希少価値は低く非常に安く買える。足尾に近い江戸の経済圏では、比較的よく見かける銭であったのではないだろうか。
 となると、「お足」というスラングの語源は、この銭だったのではないかと思えてくるのである。

 もしも、お足という言葉が足尾銭が発行された18世紀の寛保年間以前に使われていなければ、自分の説がかなりの説得力を持つ。ムフフフフ、ということで調べてみたらすぐに見つかってしまった。「お足」という言葉は、足尾銭が作られるはるか前、14世紀に書かれた「徒然草」の中ですでに使われていたのである。
 でも、もう少し抵抗しておこう。江戸庶民に「お足」という言葉を普及させたのは、この銭であったのではなかろうか。初めてこの銭を見た識字民は、お足だから足だと笑いながら人に見せたに違いない。「お足」という言葉の普及に足尾銭が1枚かんでいると勝手に信じている。
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Comment

No title

早速来てみたら、お正月らしく(かな?)コインの話題だったんですね。
コインとは関係ないけれど、新語を作ったり、流行らせたりって
のは今も昔も若い女子が得意だったのがおもしろい。
もっとも、私のようなおばさん(お婆さん?)がマスターするころは
もう廃れてることが多いけど。。。(笑)

今年も多岐にわたった話題楽しみにしてます。

Re: No title

> 新語を作ったり、流行らせたりって
> のは今も昔も若い女子が得意だったのがおもしろい。

めんどうな理屈にとらわれず、面白さを敏感にキャッチする感覚に優れているんでしょうね。そんな頭の軟らかさを見習いたいです。

> 今年も多岐にわたった話題楽しみにしてます。

ありがとうございます。ぼちぼち書かせていただきますのでよろしくお願いします。
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プロフィール

Kimupon_Cicadan 木村 義志

Author:Kimupon_Cicadan 木村 義志
出身地 : 大阪市
現住所 : 東京都
1955年生まれ
科学図書執筆編集のお仕事
分野は生物学系

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