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日本のおカイコさん-3/岡谷蚕糸博物館ほか

 読む人がくたびれるような富岡製糸場の話を書いてしまったので、今回は写真中心に軽くいってみようと思う。

 富岡市と国内姉妹都市の関係にある長野県岡谷市の話。
 かつて岡谷は製糸業で栄え、最盛期には200以上の製糸工場があり、山一争議で労働運動史に名を残す山一林組の製糸場も岡谷にあった。
 ただし今の岡谷には製糸工場の遺構がほとんど残っていない。その理由は、岡谷は製糸から精密機械への産業転換に成功し、その際古い工場をどんどん解体して新しい建物を建てたからだという。
 精密機械の製造で名を馳せ、東洋のスイスとも呼ばれた岡谷であるが、製糸アイデンティティもちゃんと残されているようで、それを物語る施設の一つが岡谷蚕糸博物館だ。

岡谷蚕糸m

 小規模で地味な博物館だがコレクションは充実している。
 9/18の記事に書いた和田英が富岡で使ったフランス式繰糸機も展示されている。それと同型というのではなく富岡製市場にあった機械そのものなのだ。現在残っているのはこの1台だけである。
 この機械はフランス製ではあるが、日本人が使いやすいように作られた特注品なので、製造国の産業遺構や博物館にもないだろう。
 富岡製糸場にはこれが片側75台ずつ2列に配置されていたらしい。ただしこの機械は後世の改造が加えられている上に不動品であったため、岡谷では構造の研究を兼ねて、輸入当時の姿を再現した完動品を1台新しく製作している。やるな、岡谷の蚕糸博物館。写真はオリジナルの古い方。 
 なぜ富岡の機械が岡谷にあるかというと、富岡製糸場を経営していた片倉工業の社長が、各地に散らばっている古い機器を、自社の本拠地である長野県諏訪市に集めて保管したからで、後にそれが隣町の岡谷にある蚕糸博物館に寄贈されたというわけである。

フランス式オリジ

 とにかく繰糸機のコレクションは素晴らしく、富岡以前の座繰機から最近の大型自動繰糸機まで、日本の蚕糸主要機械の歴史を辿れるようになっている。
 あと目を引いたのが、ポール・ブリュナが特注したといわれるフランス製の生糸水分検査器。高さが1m以上もあって、まわりに美しい絵が描かれた美術工芸品のような検査器である。これじゃ富岡が大赤字になるわな。

水分検査器

 繰糸機といっても、動いている所を見ないと仕組みがよく分からないかも知れないので、松本市で動体保存されている昭和興行の繰糸場の写真を見て頂きたい。
 繰糸機は諏訪式と呼ばれる型で、基本構造はフランス式と同じである。2008年に撮ったもので、他に見学者がいなかったにもかかわらず、元工女さんとそのお弟子さんがわざわざマンツーマンで実演をして下さった。感激と興奮。ここでもう一度お礼を申し上げたい。

繰糸04

 台の上のシンク(釜)の中には70~80℃の熱湯が入っており、湯は別棟のボイラーから供給される。ここに別の大型釜で煮た繭を入れるのだが、明治中期ぐらいまでは、この台にさらに高温の釜が付いており、その中で繭を煮ていた。その場合、個人の技量や作業の流れによって煮加減にバラつきがでるので、煮繭と繰糸の作業を分けることで煮繭の均一化と作業の効率化を図ったというわけだ。フランス式では釜や台が金属であったので、それらに触るとさぞ熱かっただろうと思う。
 繭を煮るのは糸を固めているセリシンという物質を溶かすためで、繰糸作業は常に熱湯と湯気の中で行われる。横に置かれたフィンガーボールのような小さな容器は、お察しの通り指を冷やすための水である。

繰糸01

 ふやけて糸が少しほつれた繭から、稲穂を束ねたもので糸の端を拾いだし、もつれをきれいに解した上で一定数の繭の糸を合わせ、ベルト駆動で回転する糸巻きに巻き取っていく。糸巻きは頭の後方にある。
 途中で糸が切れたり繭の糸が終わったら別の繭の糸を足していくわけだが、最初の糸の端を正確に手早く拾い出すのと、太さを変えずに糸を継ぎ足していくところに工女の技量の差が大きく現れるそうだ。昔の工女はほとんど休まずこの作業を日に12~14時間も続けたのである。

繰糸02

 あと、熱さだけでなく糸巻きの騒音が酷いことも付け加えておきたい。そもそもがベルト駆動やチェーン駆動の機械はうるさい上に、昔は回転軸や軸受けの精度が低いため、振動も多く色々なノイズが発生した。
 昔の製糸工場の写真を見ると、着物を着た女性が並んで静かに手仕事をしているように思えるが、実はガンガラガンガラ機械の音が鳴り響き、あちこちでボイラーの蒸気がシューシューいってる、かなり騒々しい工場だったのだ。

繰糸03

 分かりにくい写真で恐縮だが、右から2つめの糸巻きに、うっすら絹糸が巻き取られているのが見える。糸が細いので、相当量巻き取らないと糸が見えてこない。戦前アメリカに輸出していた糸は、日本の伝統的な絹糸よりずっと細いストッキング用の糸だったで、品質管理に苦労したという。この繰糸機は一つの釜から同時に4条の糸を巻き取る。

 ここで養蚕や製糸に興味をお持ちの方へ情報(笑)。大学の紀要には論文の数を稼ぐことを目的にしたようなつまらない物も多いが、岡谷蚕糸博物館の紀要は門外漢でも興味が持てるような研究報告が多く、テーマも生物学から経済史まで色々揃ってるし、中には100歳を超える元工女さんへのインタビュー記事まで掲載されていたりするので、大部分のページが楽しく読める。紀要というよりは機関誌かな。1冊1,000円。リンク→「岡谷蚕糸博物館出版物案内」
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ありがとうございます。

お読み頂きありがとうございました。
ご子孫からのお言葉はとても励みになります。
今後ともよろしくお願いします。

2013-07-22にコメントを頂戴した方へ

大変申し訳ありません。昨年の通知自動メールを見落としておりました。
もし、今からでも間にあいますなら、再度お知らせ下さい。
古い記事へのコメントはたまにこういう事をやってしまいます。
本当にすみません。

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プロフィール

Kimupon_Cicadan 木村 義志

Author:Kimupon_Cicadan 木村 義志
出身地 : 大阪市
現住所 : 東京都
1955年生まれ
科学図書執筆編集のお仕事
分野は生物学系

写真は特にクレジットや注釈がない限り筆者の撮影です。記事や写真についてのお問合せはなんなりと。
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