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自然

魚屋さんは楽しい

 旅行に行ったときは、できるだけ鮮魚店や魚市場を探してのぞくことにしている。
 最近は魚の流通も様変わりし、全国的に画一化が進んでいるので、だんだんつまらなくなってきたが、それでも一つや二つは地方色豊かな魚の顔や名前を見る事ができる。

ヒメジ

 これは初夏に行った萩の魚屋さんで見た金太郎という小魚。図鑑の標準和名は「ヒメジ」で15cmほど。全国的に捕れるのだが、利用する地域は限られている。なかなか旨い魚なのだが関東の市場ではあまり見かけない。フランスやイタリアではもう少し大形の近縁種がよく利用されていて、旨い魚の一つに数えられている。フランスの食堂でメニューにRougetという単語があったらヒメジの仲間の料理だ。イタリア語ではtriglia di fango(直訳すると泥ボラだが辞書を見たらちゃんとヒメジとなっていた)と呼ばれているそうで、ポンペイの壁画にも描かれていたからヨーロッパでは昔から親しまれていた魚なのだろう。

 獲れたヒメジの多くは干物にされるようだが生鮮品も旨い。身が軟らかいので刺身にするなら新鮮であることが条件。少し軟らかくなってたら酢で締めるとよい。産地ならでは楽しみとなる。一盛り880円が高いか安いかはよく分からないのだが、萩では単に総菜用の雑魚では片付けられない地位を得ているように思う。沿岸の浅場にいるので、ダイビングをする人なら岩場がとぎれた砂泥底を探せば、生きて動いている姿を見る事ができるだろう。

メダイ

 上の写真も同じ店。真ん中のダルマ鯛というのは標準和名が「メダイ」という魚。照焼き、西京焼きなどにすることが多いが、新鮮なものは刺身も旨い。
 メダイは深場にいるのでダイビングでは見られないし、鮮魚店では切り身で売られる事が多いので、マルを見つけたらよく観察するとよい。顔を見たら分かるがイボダイに近い魚だ。漁獲量は少なく、最近のファミレスの和食メニューや味噌漬けの切り身などで売られる「メダイ」は、シルバーという変な名前で流通しているセリオレラ属の輸入魚であることが多い。そちらも旨い魚でどちらが好きかは好みの問題だが、やはり味は違う。

 この写真の上の方に半分だけ見えてるオレンジ色のボテコ<小>1尾250円は「カサゴ」のこと。写真を撮ったとき気づかなかったのだが、これはウッカリカサゴかも知れない。カサゴそっくりなので正確に見分けるには胸びれの筋の数などで確認しなければならないけれど、白点のニュアンスがウッカリぽい。「ウッカリカサゴ」の和名は、筆者が尊敬する魚類分類学者の一人、故阿部宗明(ときはる)先生が「ウッカリしてると他の同属近縁2種のカサゴと見間違えますよ~」ということで名付けられたもの。先生によるとブイヤベースが旨いということだが、このサイズなら無難に煮付けか。
 ところで最近、日本人に向って日本語で話しているのにもかかわらず、魚の名前をわざわざ英語で言う人がいるが(特にルアー釣りの人に多い)、アホかと思う。ナマズがキャットフィッシュでスズキはシーバスなんだと。英米人より日本人の方が魚を細かく呼び分けてきたのだから、わざわざ大雑把にしか分けない人達の言葉で呼ぶのはおかしい。英語ではサバもアジもサワラもMackerelだし、マサバとゴマサバを区別してそれぞれの旬を意識するなんて事もまずやらない。
 生き物の名前はそのその地域に住む人と生き物との関係を示す歴史資料、言葉の文化財だから、大事に使い続けて欲しいと思う。カタカナ表記がカッコイイと感じるのも一種の文化なのかも知れないけど。

アマダイ刺

 最後は萩の名物アマダイの刺身。京料理では身の軟らかい甘鯛は蒸し物にするのが定石で、しかも鱗をバリバリ剥がすと身を傷めるから包丁で皮を引いて鱗を皮といっしょに取り除くのが板前の常識となっている。しかし、まだ身が締まった新鮮なアマダイが手に入る萩では、刺身、しかも鱗を落とした皮付きの刺身が賞味できる。皮とその直下にも旨味があるから、皮を引くとこの味は分からないのだ。
 今回旅館で予約注文してこれで5,000円。安いなあ。5人でも十分に楽しめる量だが、あまりお目にかかれないので、もぐもぐと全部食ってしまった。
 一般に流通しているアマダイには、シロアマダイ、アカアマダイ、キアマダイの3種があり、これはアカアマダイ。全国的な流通量もアカアマダイが一番多いと思う。京都ではアマダイをグジと呼び、本来は一番大きくなるシロアマダイを指す名前だったが、今は区別しないようだ。萩でアマダイといえばアカアマダイのようで、漁協に貼ってあったポスターもアカアマダイであった。

アマダイポスター


 味は白、赤、黄の順というのが定説だが、どの種も同じだという人も多い。しかし、今では漁獲量の減ったシロアマダイの大形個体の味を知る関西人としては、やはり白が上だと思う。
 肝心の刺身の味だが、甘味もあってかなり旨いと思うし、滅多に食えないので満足度は大であったが、残りの人生で刺身が5種類しか食えないとしたらアマダイはその中に入らないな。味に順位をつけるなど野暮の極みだけど参考までに(笑)。でもまだ食ってない人は萩の旅館を予約するとき、ついでにアマダイも1尾注文すべきだろう。見た目も華やかな魚なので食卓が楽しくなる。
 
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プロフィール

Kimupon_Cicadan 木村 義志

Author:Kimupon_Cicadan 木村 義志
出身地 : 大阪市
現住所 : 東京都
1955年生まれ
科学図書執筆編集のお仕事
分野は生物学系

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