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お城めぐりの続き「萩城」

写真は萩城の本丸正面とその後に立つ指月山。左の少し高い石垣が天守台。


 萩は古い家並が残る町として人気だが意外に歴史は新しい。関ヶ原以後の新興都市である。
 大きな藩の場合、領主の居館所在地が県庁所在地になることが多いのだが、萩は30万石の中心地であったにもかかわらず、山口県の県庁所在地になりそこねた。幕末に殿様が交通の要衝である山口に引っ越してしまったからだ。
 萩の領主であった毛利氏は、中国地方の大半を領有する大大名で、本拠地は今の広島県にあった。関ヶ原の敗戦によって領地の大部分を没収され、寂れた未開地の萩に封じ込められてしまったわけだが、幕末になって幕府の力が衰えてきたことを感じ取り、江戸に構築したネットワークを駆使して藩庁の山口移転を勝ち取った。毛利家の人々にとって、萩は屈辱の仮住まいであり続けたのだろう。おかけで萩は歴史の大きな流れから外れ、日本海側の知名度の低い小さな町になってしまう。そのために近年観光地として脚光を浴びることになるのだが。



 長く萩の中心であった萩城は、明治初頭まで天守が残っていたが、明治政府の廃城令で石垣と掘だけを残して解体された。明治政府とは実質的に長州政府であるから、各地の城下町の住民に対し自ら規範を示す必要もあったのだろう。



 陸から萩城を眺めると、背景に山を配置した優雅な平城だが、裏に回ると防御構造物にこの山を組み込んだ、海岸の大要塞だったことが分かる。近世までは日本海や東シナ海の方が防衛上重要であったから、海からの侵攻を意識して築城するのは当然だが、日本の城ではあまり見ない景観だ。時代が新しい分、元軍に備えた福岡県の海岸防塁より立派な石垣が並んでいる。かつてスペインがカリブ海沿岸各地に築いた海岸要塞を思い出した。


 これは日本で毛利氏が萩の海岸で城を作ってた頃、スペインがカリブ海で作ってた海岸要塞のひとつサン・サルバドル・デ・ラ・プンタ要塞。度重なるハリケーンの襲来で工事は遅れに遅れたとのこと。ここに行った頃はまだあまり城に興味がなくて、管理してるキューバが古い大砲を撃つのをサルみたいにぼーっと見物してただけ。城郭構造の詳細を見るなんてことをしなかったな。思えば惜しいことをしたもんだ。



 最初の写真に見える指月山は標高150m足らずの小さな山。といっても海岸のゼロメートル近くから登ることになるので、頂上に立つには一汗かくことになる。ここには原生林の植生がよく残っているので山ごと天然記念物として保護されているが、この山の山腹や頂上にも毛利氏が築いた萩城の続きがある。往時は何棟もの櫓があり、土塀や石垣を巡らせたなかなか立派な城郭で、萩城は麓の平城の他に山城がもう一つあるといった仕組みになっていた。現在、この山城を復元整備するには天然記念物指定が邪魔になり、植生を保護育成するには城の遺構が邪魔になるというジレンマに陥ってるように思えた。
 いうまでもなくこの山城は、麓の城が攻撃に持ちこたえられなくなったとき、将兵が山の上に逃れて立て籠る詰め城で、攻撃を防ぎながら援軍を待つか、それが叶わない場合には最後の自殺的攻撃をしかけるか自害して果てるための場所である。領主の毛利氏代々は、参勤交代で萩へ帰ったとき、必ず一度は山に登り武人としての自覚を高めるのに役立てたという。もちろん恒例のピクニックといった気分で登ったお殿様もいたと思うけど。



 山口県にはどれが県庁所在地になってもおかしくないような町がいくつもある。明治以来県庁が所在するのは山口市であるが、近世を通じて長門・周防の中心となっていたのは萩であり、また西の端には海上交通の要衝で、弥生時代から人がたくさん住んでいた下関がある。さらに瀬戸内側の中央部には工業都市の宇部、東には交通の要衝であり錦帯橋で有名な岩国市もある。山口県の中心都市はどこだと聞かれたら答えにくい。
 でも山口城の跡に建てられた県庁や議場を見て、やっぱりここが幕末の山口県の中心だったということが納得できた。




 

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プロフィール

Kimupon_Cicadan 木村 義志

Author:Kimupon_Cicadan 木村 義志
出身地 : 大阪市
現住所 : 東京都
1955年生まれ
科学図書執筆編集のお仕事
分野は生物学系

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