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海の色/兵庫県知事の失言

 1月の話題になるが、井戸敏三兵庫県知事のNHK大河ドラマの「色」についての発言が、マスコミで盛んにとり上げられていた。
 新聞などによると、始まったばかりの「平清盛」の色調を「薄汚れた画面」で「自宅のテレビの色がおかしくなったかと思った」などと酷評し、さらに海の場面に対して「真っ青な海が出てこず、これでは瀬戸内海とは言えない。自然をきちんと映し出してほしい」と注文をつけたという。

 映画やドラマを見てどんな感想を持とうが自由である。だだし、それを公言するときには、頭の中身が読み取られることを覚悟しなければならない。中でも美について云々するときなどは、その精神性が如実に顕れてしまうので注意が必要だ。

 井戸知事は自治省の官僚出身であるから、公人がこの手の発言に慎重であるべきことは、よく知っているはずである。しかし政治家になってからは、偏った見解でもハッキリいうようになった。この10年で対抗馬を寄せつけないほど強い「現職」に成長したのだから、多少乱暴といわれようとも、市井のオッサンのような言いたい放題は、地方に根を下ろそうとする政治家にとって必須の演出なのかも知れない。

 今回の発言も、お高くとまった映像表現を貶して、大衆に親しまれようとでもお考えになったのだろう。それにしても表現がお粗末過ぎた。
 カラーテレビが普及したばかりの70年代ならいざしらず、色彩の微妙な差異も映し出す高解像度デジタル放送時代に、こんなトンチンカンなことをいってたら失笑をかってしまう。

石垣島
石垣島の海。知事はこんな瀬戸内海がお望みか。 by imagenavi

 ちょっと重箱の隅をつついてみよう。とりあえず瀬戸内海の色について。結論からいって瀬戸内海は今も昔も「真っ青な海」などではない。真っ青な海といえるのは、上のような熱帯や亜熱帯の海であろう。

三原多島海
これが瀬戸内海の色。亜熱帯のようにスカッと青く抜けるのではなく、色に多様性がある。

 今の日本人は沖縄など亜熱帯や熱帯の海が身近になっているので、青い海がどんなものかをよく知っている。
 瀬戸内海はそれらとは違って、栄養分の多い内海である。当然植物プランクトンも多い。水は青というより緑色がかって見える場所が多いはずだ。井戸知事は瀬戸内海をどれぐらいご覧になったのだろう。
 もし、瀬戸内海が沖縄のように真っ青な海なら、魚があまり獲れない海になってしまい、鯛も蛸も名物にはならなかっただろう。瀬戸内海の自然をきちんと映したら、それは真っ青な海にはならないはずである。
 NHKも、大河ドラマの色に関する一つのアンサーとして「魚わく緑の海」とでも題した自然番組を制作されてはいかがであろうか。

三原海面の色
昼間の瀬戸内海を間近に見れば、こんな色調に見えることが多い。広島県竹原市沖

 瀬戸内海に限らず、水面の美しさとは、水の青さを意味するのではないし、青いほど自然度が高いというわけでも、もちろんない。
 瀬戸内海の美しさは、その穏やかな水面に映し出される季節と天候、時間の変化にある。つまり、日々刻々と変化する色の面白さこそ瀬戸内海の美の本質といえるだろう。そこに夥しい数の小島が浮かんでいるのだから、もうたまりませんて。

 オランダ商館の時代から、日本に滞在した西洋人(おそらく世界の海を見てきたであろう人々)も、瀬戸内海の美しさを褒めている。定期的に長崎から江戸に参府した歴代オランダ商館長とその随員達は、北九州から大阪まで和船で海路をとるのが普通であったから、瀬戸内海の美しさをよく知っていた。でも、瀬戸内海は真っ青だから美しいなどとはいってない。
 もし、海の美しさや自然度が、青さとイコールだと思っているのだとすれば、あまりにもお粗末な美意識であり自然認識であるといわねばならない。
 
明石の海
かつて小柳ルミ子が歌った瀬戸の夕暮れである。その美しさに立ちすくむ。
尾道水道
こちらは尾道の向島水道。都市部の奥まった水域だが、こんな美しい色に染まる瞬間がある。

 日本語では緑色も青いと表現することがあるが、真っ青といったら、多くの場合グリーンではなくブルーである。もちろん気象条件と見る位置によっては、瀬戸内海がブルーに見えることもある。特に青く晴れ渡った秋~冬の空を写した瞬間は真っ青と表現してよいかもしれない。しかし、それも瀬戸内海の美しさの一部分でしかないのである。

 井戸知事の兵庫県庁がある神戸の港は、平清盛によって整備され、近畿における日宋貿易の拠点となった国際港だ。現在の水質は決してよいとは言えず、高度成長期より改善されたとはいえ、夏などは赤く濁っていることもある。それでもやはり瀬戸内らしい美しさを見せてくれる瞬間はあるし、生き物もたくさんいる。真っ青ではないが、これも瀬戸内海の自然の一部なのである。

神戸港
神戸の海 by imagenavi 

 最後に瀬戸内海が青く見える写真を。
鞆の浦01
 青空を写して青く輝く鞆の浦。それでも青さは沖縄の海とは違う。単純に真っ青とは言い切れない、微妙な彩度の青さが瀬戸内海の自然ではなかろうか。

 物事の多様性を認識しているかどうかは、きめ細かい対応ができる為政者かどうかを見極める手がかりとなろう。おそらく井戸知事は、頭のいい有能な人物だとは思うが、一つの価値観で物事を強引に押し進めてしまうのではないかと、私などは警戒心を抱いてしまうのである。

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プロフィール

Kimupon_Cicadan 木村 義志

Author:Kimupon_Cicadan 木村 義志
出身地 : 大阪市
現住所 : 東京都
1955年生まれ
科学図書執筆編集のお仕事
分野は生物学系

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