備忘録/自然・文化・社会とニュース

文化財

文化財を守ることの難しさ 下田市の例

すっかりご無沙汰してしまいました。申し訳ありません。またぼちぼち書かせて頂きます。

 写真は昨年取り壊された「国の登録有形文化財」の「南豆(なんず)製氷所」。現在は更地となり、新しく建てられる飲食店の開店を待っている状態だ。壊されることになったとき、すぐに写真を撮りに行ければよかったのだけれど、行った時にはここまで作業が進行していた。

写真は一部しか表示されないので、クリックすると別窓で開きます。
南豆製氷所

 南豆製氷所は大正12年、下田の水産物等に使う氷の製造工場、また製品を保管する冷凍冷蔵倉庫として建てられ、隣り合った2棟の建物で構成されていた。その後多少の増改築はあったらしいが、石造りの洋風建築の姿を今に伝えるものとして知られている、じゃなくて「いた」。
 南豆製氷所の竣工当時の姿←クリック
 国は有形文化財に登録した理由として「初期の冷凍冷蔵倉庫として貴重で、再現することが容易でない」ことをあげている。
 そんな建物が取り壊されてしまったことは残念でならないが、下田市(人口2万3千人。静岡県で人口が最も少ない市)が文化財を大切にしなかったとか、市民が文化財に理解がなかったということでは決してない。全ては日本の地方都市全体を覆う「財政難」という暗雲のせいだ。取壊しを自分の体を切られるような気持ちで見た人も多いだろう。

下田市街
下田市の中心街。伊豆半島は平地が少なく、下田市も稲生沢川の河口に形成されたわずかな平地に形成された港町であった。現在は市民の多くが第三次産業に従事している。

 下田市民は保存のための団体を作って広報や募金活動に奔走し、市も保存するための「有効活用検討委員会」を立ち上げ対応策を練った。もちろん国も解体にすんなり同意した訳ではない。また、募金が集まるまでの間、篤志家が当面の費用を負担して時間を稼いだという。
 聞くところによると、土地建物の買い取り費用が1億円、倒壊の危険を防ぐ修理に1億円が必要とされ、その他の経費も含めて3億円もあればおつりがくる勘定である。しかし、市と市民にはこの金額が大き過ぎて、結局写真のような結末と相成った。
 大都市の開発事業から考えると「たったの3億円」で貴重な建物が残せるなら安いもの、と言えなくもない。現在東京では、市民や建築家などが反対する中、まだまだ使える片山光生デザインの「歴史的建造物」を壊してまで、オリンピック用陸上競技場の建設(他の競技場や調査費などは別)が強引に進められているが、その予算は1,625億円だという。高額過ぎて高いのか安いのかよく分からんけど。

ペリーロード
下田は最初に開港されアメリカ領事館が置かれたが、都市から遠過ぎたため、5年程して横浜が開港されると、外国船は水や燃料の補給や、避難港として利用するだけになってしまった。それでも一定の賑わいがあり、花街なども形成された。現在も古い建物が残りその名残が見られるが、こうした古い町並みを「ペリーロード」などと、商店街のような名前にするあたりに、アイデアと資金不足の苦しさを感じずにはいられない。

 下田市も国や県の補助を受けて箱物行政に突っ走っていた時期もあったが、その後不景気に陥り市の年間予算を大きく上回る250億円という借金と、箱物の維持費や、失業や高齢化に伴う福祉予算の増加が重くのしかかるようになった。
 市長が先頭に立って、支出削減に取組み(住民サービスに影響がでないかと心配になるほどの予算や人員をカット。市長の給料は県内で一番安いと自慢している)、そのおかげで負債を25%ほど減らすことに成功したが、下田市はまだ、地域問題の研究者が「貧困」と形容するほど苦しい状態らしい。
 もちろんこうした苦しみは下田市だけのものではない。日本全国に共通して見られる現象だ。

 文化財の維持は、それが残されている町の市民が主体となって活動しないとうまくいかないし、良好な状態で維持活用されているのは、文化財を愛する市民が多くいる町だ。でも予算的なことは小さな自治体だけの手に負えるものではない。国家的な事業と認識しないと市民の負担は増すばかり。
 これは前にもお寺の話で書いたけど、国の文化財保護予算は600億円程度。建築物の補修などに使われる予算はそのうち100億円にも満たないそうだ。登録有形文化財にいたっては、どんなに壊れても国は一銭も出さないし、今回のように、登録を抹消すれば壊してもOK(登録有形文化財=ゆるやかな保護措置 by 文化庁)。
 日本と同じく伝統を重んじるとされるイギリスは、建物の修理費に毎年約500億円を投じているという。しかもイギリスの国家予算(歳出額)は、日本の半分以下なのだ。人口も半分ということを考えると、国民一人当たり10倍の費用を、古い建物に投じていることになる。なんなんだろね、この違いは。

プロフィール

Kimupon_Cicadan 木村 義志

Author:Kimupon_Cicadan 木村 義志
出身地 : 大阪市
現住所 : 東京都
1955年生まれ
科学図書執筆編集のお仕事
分野は生物学系

写真は特にクレジットや注釈がない限り筆者の撮影です。記事や写真についてのお問合せはなんなりと。
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