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原発推進におけるマチズモについて考えた

 原発の実体を見えにくくし、方向転換を難しくしたのは、電力業界と政府の嘘や詭弁だけでなく、人々の心の中にあったマチズモではなかったかと思う。( machismo は男性優位主義と訳されることが多いが、ここでは力の行使を好む心のありようと解釈してほしい。だから性別にはこだわらない。マチズモの塊のような女性も数多くいる)

 「日本人の核アレルギー」という言葉がよく使われてきたが、その意味するところは「無知で視野の狭い日本人が、核に対して合理性を欠いた恐怖心や嫌悪感を持っている」であろう。そして大抵の場合「幽霊を怖がるような非科学的な心配をせず、過去にこだわらず、国家の未来を考えよ。資源のない日本には核エネルギーが必要なのだ」と続くのである。こうした言論に高揚感を覚えるのは、心の中に潜むマチズモの仕業である。

 アレルギーとは本来、体を守る免疫システムが特定の刺激に過剰反応し、様々な疾患を引き起こすことをいう。そのことから「日本人の核アレルギー」を定義すれば、広島長崎の歴史的体験によって、日本人が核兵器や放射線に過剰な反応を示し、それが日本に不利益をもたらしているということになる。
 もし不利益がないなら、それは通常の免疫反応、つまり核兵器や放射能の危険から身を守ろうとする極めて正常な反応であって決してアレルギーなどではない。
 このあたりの利益、不利益についての判断は難しい。国民の核への恐怖心や嫌悪感は、国の原子力行政をより慎重なものにさせた反面、国民を安心させるための嘘や隠蔽を常態化させたといえるだろう。ただ、日本人が核に無頓着で、国や電力会社のやりたい放題にさせていたら、日本には今より多くの原発が作られ、もっと早くに大事故が起きていたかもしれない。だから全体として利益はあったように思う。

 ウランは石油の200万倍もの力を出すが、マチズモはそうした強大な力を好む。原爆の恐怖を実体験した人や、その影響を強く受けた人は別として、先進国の核開発競争や新興国の核武装を眺めつつ、平和な時代を過した人々にとっては、核は力の象徴である。多少の危険を感じても、そこにマチズモが作用すれば、高揚感を持って原子力を受け入れるのだ。
 
 父権的な力の行使を好むマチズモは、母性的な感情を現す市民運動を嫌う。「子供達を放射能から守ろう」なんて甲高い叫び声を聞いたら虫酸が走るのである。そこまで嫌わなくても論理的な話が通じない連中の感情論だと軽視するはずだ。しかしマチズモ側も原子力に無知であることに変わりはない。ただ、自分たちは広い視野で天下の経済とエネルギー政策を捉えているという思い込みがあるため、電事連のプロパガンダや、権威あるマッチョな評論家の言葉が頭に染みわたる。そして、以下のような単純な原発推進論が完成するのだ。

・日本が経済成長を続けるには膨大なエネルギーがいる。
・海外に頼る化石エネルギーを原子力に転換し、高速増殖炉や核リサイクルも推進しなければならない。
・自然エネルギーなどイメージ先行の夢物語。現状は不安定で力不足のオモチャである。
・反原発など国益を考えない非科学的な感情論。運動はサヨクやプロ市民の祭り。
・日本にはそれを実現する科学技術がある。

 政治家や評論家も含めた原子力の素人が納得している理屈は、まあだいたいこんなところだと思う。いずれも官産学の共同体が作り上げた虚構だが、マチズモは天下国家を大掴みに語るのを好むので、その内容を自ら検証することはない。発言者達の権威と威勢のよさ、そして国益という言葉に説得されてしまうのである。
 上に箇条書きした理屈で原発に賛成するのと、放射能を浴びたらガンや白血病になるらしいから反対するのは、大雑把という点でさほど変わらないが、実体がよく分からない有害そうなものを遠ざけようとする後者は、詳しい内容も知らずに、高揚感だけで巨大プロジェクトを応援する前者より賢明な態度といえまいか。

 こうした原発推進理由は、言葉を少し変えるだけで戦争の推進理由にそのまま使える。

・日本が発展するには外地の拠点や大量の資源がいる。
・列強の干渉を跳ね返し主権を確保するために軍備を充実さなければならない。
・力を欠いた弱腰外交で権利の拡大はできない。
・反戦運動など国益を考えない感情論。アナキストの煽動である。
・日本にはそれを実現する知恵と精神力がある。

 そういえば石原慎太郎都知事もマチズモを好む政治家だな。
「日本は核を持て、徴兵制やれば良い」石原都知事(11/06/20)
プロフィール

Kimupon_Cicadan 木村 義志

Author:Kimupon_Cicadan 木村 義志
出身地 : 大阪市
現住所 : 東京都
1955年生まれ
科学図書執筆編集のお仕事
分野は生物学系

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