備忘録/自然・文化・社会とニュース

自然

虻蜂不獲(アブハチとらず)

 「アブハチとらず」という諺がある。子供の頃「二兎を追う者一兎をも得ず」と同じような意味だと聞いて、ウサギなら両方獲りたくなるかもしれないが、アブやハチを欲しがる奴なんているのか ? と思った。
 後で知ったのだが、欲張ってアブとハチを欲しがったのは、人間ではなくクモ。それなら少し分かる。でも昆虫が好きな子供なら、それも変だと思うだろう。
 クモはハチに食べられることが多く、ベッコウバチのようにクモばかり狙うハチもいるからだ。世界最大のハチとされる中央アメリカのオオベッコウバチは、世界最大のクモ、ゴライアストリトリグモを専門に狩るタランチュラホークとして有名である。

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捕らえたトリトリグモを引きずって運ぶオオベッコウバチ(全長約60mm)お借りした写真
Astrobradley Wikimedia Commons


 アブハチとらずの諺を考えた人は、アブを獲ろうとしてハチに襲われそうになったクモでも見たのであろうか。そうなると「アブとりハチとられ」である。
 上の写真のように、網をはらず歩きまわるクモは、天敵のハチに襲われたらまず逃げられない。しかし、網をはるクモには、ハチに襲われそうになると網から落ちて逃げるものがあるという。それならまだ生きのびるチャンスがありそうだ。また小さなアブやハチなら、逆に網に引っかかってクモに捕まるものもいるだろう。そうなれば「アブハチとった」である。

ホソヒラタアブ01
都市部でも見られる小形のホソヒラタアブ。ハチに似ていても翅が2枚なのがアブ

 そんなくだらない事を考えていたら、ついに見つけたのである。「アブハチとった」のドヤ顔クモを。
 今年の10月上旬、ジョロウグモが網にかかった獲物を巻き巻きしてるのに出会った。クモの日常風景である。獲物は何かと覗き込んだら、どうもミツバチっぽい。カメラを持っていたので、適当に何枚か撮ってその場を後にした。
 しばらくして写真を拡大したらビックリ。獲物は1匹ではなく小形のアブらしきものがいっしょにからまっているではないか。こんなことならクモから餌を取り上げて、中の種類を確認すればよかった。撮ってから時間が経っているので後の祭り。私の野外観察にはこういう間抜けな事が多い。とにかく下がその写真である。

sクモとハチ

sクモとハチ02

 ところで「アブハチとらず」を早口でいうと、刑務所で有名な「アルカトラズ」に似ている。別にたいした意味はなく、ただそれだけの話。下はアルカトラズ島の刑務所跡。行った事がないので、これもお借りした写真。
Alcatraz_Island_Lighthouse.jpg
Ⓒ Centpacrr at en.wikipedia

自然

カメラの身分証明効果

 テレビをつけたら、カメラマンの渡部陽一が地方都市で旨い物を探すというような、呑気なバラエティ番組をやっていた。渡部陽一は番組の中で、ずっと大きなカメラをさげていたが、写真を撮る場面はほとんどなかった。それは渡部陽一がカメラマンであることを示す小道具として持たされていたからである。
 カメラが普及し誰もが持ち歩くようになって半世紀が経つが、立派なカメラには今も、文化的な記号として持つ者の身分を示す機能があるらしい。
 不審者と思われがちな筆者も、こうしたカメラの身分証明効果の恩恵にあずかろうと思う。

トノサマバッタ顔S
写真は本稿の内容と無関係。トノサマバッタの褐色型

 筆者は生き物の採集と飼育観察が好きで、そのノウハウと楽しみを人に伝えるのを仕事の一部にさせてもらっているが、フィールドで採集をしていると肩身の狭い思いをする、というか、怪しいオヤジとして白い目で見られる。
 特に不審がられるのは、人家近くのフィールドで、一人で何も持たず(ピンセットやサンプル瓶ぐらいはポケットにあるが)地面にしゃがみ込んでいるときである。警察に通報された事はまだないが、遠巻きに注視されたり、付近の家の窓がピシャリと閉まる経験は何度かある。人間に限らず生き物は、自分のテリトリーに理解できない行動をする者が近づくのを嫌がるものだ。
 しかし、カメラを持っていれば、見る人の反応が違うことに気がついたのである。

 仕事がら写真家に友人知人が多いので、自分は制作、撮影は彼らの領域、という意識が強く、カメラは持っていたが、使うのは旅行のスナップぐらいしかなかった。ところが、デジタルカメラが普及し、フィルムや現像に費用がかからなくなったので、メモ代わりに使っていたコンパクトカメラがエスカレート。ついに一眼レフやストロボを持ち歩くようになってしまった。

筆者2011_10
カメラのおかげで畑の際に突如伏せても大丈夫?

 少し重くなるが、人に理解されにくい行動をごまかすには、カメラはなるべく大袈裟で目立つ方がいい。携帯電話やコンパクトカメラにこの効果は期待できないのである。カメラさえ持っていれば、地面に長時間寝転がっていても、不審者と思われないから不思議だ。それに写真まで撮れる。何でもっと早く気づかなかったのだろう。

 あまりよい自然ネタではなかったな。


自然

魚屋さんは楽しい

 旅行に行ったときは、できるだけ鮮魚店や魚市場を探してのぞくことにしている。
 最近は魚の流通も様変わりし、全国的に画一化が進んでいるので、だんだんつまらなくなってきたが、それでも一つや二つは地方色豊かな魚の顔や名前を見る事ができる。

ヒメジ

 これは初夏に行った萩の魚屋さんで見た金太郎という小魚。図鑑の標準和名は「ヒメジ」で15cmほど。全国的に捕れるのだが、利用する地域は限られている。なかなか旨い魚なのだが関東の市場ではあまり見かけない。フランスやイタリアではもう少し大形の近縁種がよく利用されていて、旨い魚の一つに数えられている。フランスの食堂でメニューにRougetという単語があったらヒメジの仲間の料理だ。イタリア語ではtriglia di fango(直訳すると泥ボラだが辞書を見たらちゃんとヒメジとなっていた)と呼ばれているそうで、ポンペイの壁画にも描かれていたからヨーロッパでは昔から親しまれていた魚なのだろう。

 獲れたヒメジの多くは干物にされるようだが生鮮品も旨い。身が軟らかいので刺身にするなら新鮮であることが条件。少し軟らかくなってたら酢で締めるとよい。産地ならでは楽しみとなる。一盛り880円が高いか安いかはよく分からないのだが、萩では単に総菜用の雑魚では片付けられない地位を得ているように思う。沿岸の浅場にいるので、ダイビングをする人なら岩場がとぎれた砂泥底を探せば、生きて動いている姿を見る事ができるだろう。

メダイ

 上の写真も同じ店。真ん中のダルマ鯛というのは標準和名が「メダイ」という魚。照焼き、西京焼きなどにすることが多いが、新鮮なものは刺身も旨い。
 メダイは深場にいるのでダイビングでは見られないし、鮮魚店では切り身で売られる事が多いので、マルを見つけたらよく観察するとよい。顔を見たら分かるがイボダイに近い魚だ。漁獲量は少なく、最近のファミレスの和食メニューや味噌漬けの切り身などで売られる「メダイ」は、シルバーという変な名前で流通しているセリオレラ属の輸入魚であることが多い。そちらも旨い魚でどちらが好きかは好みの問題だが、やはり味は違う。

 この写真の上の方に半分だけ見えてるオレンジ色のボテコ<小>1尾250円は「カサゴ」のこと。写真を撮ったとき気づかなかったのだが、これはウッカリカサゴかも知れない。カサゴそっくりなので正確に見分けるには胸びれの筋の数などで確認しなければならないけれど、白点のニュアンスがウッカリぽい。「ウッカリカサゴ」の和名は、筆者が尊敬する魚類分類学者の一人、故阿部宗明(ときはる)先生が「ウッカリしてると他の同属近縁2種のカサゴと見間違えますよ~」ということで名付けられたもの。先生によるとブイヤベースが旨いということだが、このサイズなら無難に煮付けか。
 ところで最近、日本人に向って日本語で話しているのにもかかわらず、魚の名前をわざわざ英語で言う人がいるが(特にルアー釣りの人に多い)、アホかと思う。ナマズがキャットフィッシュでスズキはシーバスなんだと。英米人より日本人の方が魚を細かく呼び分けてきたのだから、わざわざ大雑把にしか分けない人達の言葉で呼ぶのはおかしい。英語ではサバもアジもサワラもMackerelだし、マサバとゴマサバを区別してそれぞれの旬を意識するなんて事もまずやらない。
 生き物の名前はそのその地域に住む人と生き物との関係を示す歴史資料、言葉の文化財だから、大事に使い続けて欲しいと思う。カタカナ表記がカッコイイと感じるのも一種の文化なのかも知れないけど。

アマダイ刺

 最後は萩の名物アマダイの刺身。京料理では身の軟らかい甘鯛は蒸し物にするのが定石で、しかも鱗をバリバリ剥がすと身を傷めるから包丁で皮を引いて鱗を皮といっしょに取り除くのが板前の常識となっている。しかし、まだ身が締まった新鮮なアマダイが手に入る萩では、刺身、しかも鱗を落とした皮付きの刺身が賞味できる。皮とその直下にも旨味があるから、皮を引くとこの味は分からないのだ。
 今回旅館で予約注文してこれで5,000円。安いなあ。5人でも十分に楽しめる量だが、あまりお目にかかれないので、もぐもぐと全部食ってしまった。
 一般に流通しているアマダイには、シロアマダイ、アカアマダイ、キアマダイの3種があり、これはアカアマダイ。全国的な流通量もアカアマダイが一番多いと思う。京都ではアマダイをグジと呼び、本来は一番大きくなるシロアマダイを指す名前だったが、今は区別しないようだ。萩でアマダイといえばアカアマダイのようで、漁協に貼ってあったポスターもアカアマダイであった。

アマダイポスター


 味は白、赤、黄の順というのが定説だが、どの種も同じだという人も多い。しかし、今では漁獲量の減ったシロアマダイの大形個体の味を知る関西人としては、やはり白が上だと思う。
 肝心の刺身の味だが、甘味もあってかなり旨いと思うし、滅多に食えないので満足度は大であったが、残りの人生で刺身が5種類しか食えないとしたらアマダイはその中に入らないな。味に順位をつけるなど野暮の極みだけど参考までに(笑)。でもまだ食ってない人は萩の旅館を予約するとき、ついでにアマダイも1尾注文すべきだろう。見た目も華やかな魚なので食卓が楽しくなる。
 

自然

肉食川魚の旨さ



 ウシにしろヒツジにしろ店で売られている肉には草食獣が多く、ブタは雑食だが飼料は植物質の比率が高い。野生獣でもシカやイノシシ、小形のものではウサギがよく利用されている。海産哺乳類、特にクジラ類もよく利用されてきたが、欧米から輸入された近代日本の肉食文化は草食動物が主流だ。 完全な肉食動物の山猫やイタチやテンの類が旨いという話はあまり聞かない。
 昔話にはムジナ汁が出て来るが、イヌ科のタヌキをムジナと呼ぶ地域と、イタチ科のアナグマをムジナと呼ぶ地域があり、また両者を呼び分けない地域もあるという。イヌ科のタヌキは獣臭くてあまり旨くないそうだ。アナグマはとても旨いというのが通説になっているが捕れる量が限られている。ツキノワグマが旨いという人もいるが、これも量が限られている。

 魚はこうした差はあまり無いようだが、川魚についていえば肉食魚の方が旨いと思う。
 中でもカジカの仲間は頗る旨い。塩焼きはもちろん素焼きを椀に入れ熱燗を注いだ鰍酒は逸品。フグの鰭酒がなんぼのもんじゃい。そうそう、長良川で捕れた大きなアユカケの刺身も旨かったなあ。
 そりゃ海産魚には旨いものがいっぱいあるけど、山の空気の中で自然を愛でながら食う新鮮なカジカの味には、他では得難いものがあるのだ。
 カジカはダムによって激減した魚。これが食えなくなることだけでも中下流のダム建設に反対する理由になると思う。

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ウンコまみれ


 イヌと思われる糞にいたセンチコガネ。しばらくするとウンコまみれでスタコラ逃げ始めた。草食動物の糞にたかっているものは平気でさわるが、これは少し気がひけた。普通種だし撮影のみ(信州上田の安楽禅寺境内にて)。
 スカラベに代表される糞を食べる甲虫類は、同じサイズの甲虫に比べ力が強い。おそらく糞を押しのけたり中にもぐったりするするからだろう。掌の中に握るとグイグイ押しのけて脱出しようとする。一度お試しあれ。

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心休まらない風景



 これは2008年の夏に近江八幡で撮ったもの。年長の子が小さい子にウキ釣りを教えていた。子どもが自然から遠ざかっていると言われる昨今、なんとも心休まる光景であった、といいたいのだが、日本の水辺の現実を思うと苦しい気持ちになる。
 釣れていたのは全部ブルーギル。見える魚も全部ブルーギル。30年前にはフナやタナゴ、ハゼなど多様な魚が見られた場所である。
 年長の子どもはブルーギル問題を理解しているようで「今更コイが釣れたらびっくりするよ」と皮肉をいっていた。
 釣りをする子どもにこんなこと言わせていいのか?。魚に罪はないなんて呑気なことを言ってる段階はとうに過ぎたと思う。ブラックバスよりブルーギルの方が怖いといってた人は多いが、果たしてその通りになった。
 これからの釣りはスコップが必需品。もちろん釣れたブルーギルを埋める穴を掘るためである。

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戦国大名の見た虫

 復元された安土城の大手道でたくさんのハンミョウを見た。登っていくと一度に3頭ぐらいが得意の道案内*をしてくれる。南から北に登って行く開けた道は、ハンミョウにとって格好の餌場なのだろう。

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 ここは天下をほぼ手中に収めた信長の城の正面玄関だから、諸大名はもちろんイエズス会の宣教師といった客も通っている。また、道の両側には前田利家、羽柴秀吉ら家臣の屋敷もあったらしい。乗物に乗って登った人は気づいていないかも知れないが、夏に汗を拭きながら歩いて登った人はこの虫に道案内をされたはずだ。 彼らが小さな虫に気をとめたかどうかは別として。

 赤丸内のハンミョウは実際に大手道で撮ったもの。矢印の先にハンミョウがいる訳ではなく、だいたいそんな密度でいますよ、ってこと。

※ハンミョウは開けた山道などにおり人が通りがかると前に少し飛んではすぐにとまる。このため人に道を教えているように見える。

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ニイニイゼミの当たり年

 2008年は東京都心のニイニイゼミの当たり年だった。2006年もちょっと多かった記憶があるのだが、それよりはるかに多い。 東京に来て20年以上になるが、こんなにたくさんのニイニイゼミを見たのは初めてだ。
 「都市の乾燥化が進んでいるのでニイニイゼミは減少傾向にある」なんてことを言う人もあったが、ニイニイゼミの幼虫が体に泥を付けていて、いかにも湿った土を好みそうに見えることから思い付いた屁理屈だろう。生き物の増減なんか10年や20年の観察でいえることではない。

Niiniizemi.jpg

 また温暖化と都市のヒートアイランド化でクマゼミが北上しているという人もいるが、少なくとも東京では20年前から増えたという印象はない。声を聞くのは今も「めずらしい出来事」である。
 温暖化やヒートアイランド化が、セミに全く影響を与えていないとはいわないが、何でもかんでも温暖化に結びつけて語れるほど、生物界は単純なものではないのだ。

Kumazemi.jpg
クマゼミはまっ黒のセミだが、新鮮な個体は細かい毛が生えているので、角度によって体表が銀色に見える。
プロフィール

Kimupon_Cicadan 木村 義志

Author:Kimupon_Cicadan 木村 義志
出身地 : 大阪市
現住所 : 東京都
1955年生まれ
科学図書執筆編集のお仕事
分野は生物学系

写真は特にクレジットや注釈がない限り筆者の撮影です。記事や写真についてのお問合せはなんなりと。
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